何だか音色も落ち着かないし吹きづらそうだなと思って楽器を見ると、1センチ以上頭部管を抜いている方がいます。「音程が下がらなくて…」。しかしそれは楽器の問題ではなく、頭部管の角度と吹き方に原因があります。
頭部管をどれくらい抜くかはある程度決まっている
現代のフルートは5〜7ミリ抜く前提で設計されている
フルートは頭部管を大体5〜7ミリ抜いて吹くと442Hzのラの音が出るように、楽器自体が設計されています。稀に古い楽器…1970年代とかですと440Hzの楽器もありますが、今の楽器は442Hzが主流で、吹奏楽でもオーケストラでも室内楽でもラは442Hzです。
ただし、エアコンが効いていない暑い部屋だとピッチは上がるので、5〜7ミリより多少抜く必要があるかもしれませんし、逆に冬場だと少し入れないといけないかもしれません。しかしこれは極端に暑かったり寒かったりする場合です。今は学校も冷暖房完備のところが多いでしょうし(私の高校には当時ついていませんでしたが…)、年間通して頭部管の抜き具合を大きく変えることは殆どないと言えます。
5〜7ミリより入れたり抜いたりしないと合わないのは、角度や奏法に問題があるかも
吹奏楽部だと毎日チューナーを見るかもしれませんが、日によってピッチがあまりに違う場合は、歌口の角度が毎日違いすぎるか、吹き方が毎回違いすぎる可能性があります。本当の初心者でない限り、頭部管の角度が毎日色々なのはコンディションの不安定につながります。頭部管の角度はピッチと音色に大きな影響があり、極端なセッティングによって、頭部管も極端に抜き差ししなければならなくなっているケースがあります。
息が強すぎるとピッチは上がり、息が貧弱だとピッチは下がります。あまりに上がる・下がる場合は、そういった奏法の面も見直す必要があるかもしれません。
フルートの頭部管セッティングに関する3ヶ条
❶頭部管の角度は構えた時に指が動かしやすいかを優先して決める
フルートやピッコロの頭部管の角度は、口元の吹き心地を優先するのではなく、まず手や腕に無理のない角度で胴部管以下を構えられることが最優先で、その後頭部管を音が出る角度に合わせるのが正しい手順です。
❷頭部管の角度は毎日同じにする
何か目印を見つけるなり、油性ペンやマニキュアで印をつけるなりして、なるべく毎日同じ角度でセッティングしましょう。もちろんそこにこだわり過ぎなくて良いですし、違う角度で吹きたくなることもあると思うので適宜変えるのはOKです。ただ、不調の時にセッティングが原因なのか否か判断するためにも、普段角度が安定している方が良いです。
❸フルートの頭部管の抜き具合は出来るだけ5〜7ミリを守る
私は意図があって1センチ抜くこともありますが、まずは標準の5〜7ミリを守ってみましょう。ピッチが上がり、音はバサバサする場合は、頭部管が外向き過ぎるかも。こうなると頭部管を5〜7ミリ抜いても恐らくピッチは高く、もっと抜くしかなくなりますので、まずは頭部管を少し内側にしてみましょう。逆に内向きすぎるとピッチは下がり、音も詰まった印象に。頭部管を5ミリより入れないとピッチが上がらない場合は、角度が内向き過ぎることを疑います。
ピッコロなら3ミリ以上は抜かない
ピッコロで頭部管を1センチ抜いていた学生さん
ある日吹奏楽部でピッコロを吹く生徒にレッスンをしていたのですが、何だか音がぼんやりしていてアタックもしにくそうでした。前回はまだピッコロが久しぶりとのことであまりいじらなかったのですが、今日はセッティングを見せてもらいました。すると1センチくらい頭部管を抜いていました。「えっ、こんなに抜かないと合わないの?」と聞くと「ハイ…」とのこと。それで全ての合点がいき、歌口の角度を変え、頭部管を入れました。
ピッコロは全てがフルートの半分程度
ピッコロの場合はフルートと同じように5〜7ミリ抜くと、恐らく抜き過ぎです(私の肌感覚ですが…)。少なくとも1センチは抜き過ぎで、それでチューナーの真ん中に合うということは吹き方が相当に明るいのだと思います。私は大体いつも1〜2ミリくらい、暑いところで3ミリ抜くかどうかです(個人差・楽器差あり!)。
ピッコロはフルートのちょうど半分の長さです。フルートに比べてピッコロの方がこの抜き差しや歌口の角度はシビアで、例えばフルートで何かを1ミリ変える事が、ピッコロでは2〜3ミリの変化に相当するように思います。なので見た目には分からないくらいの幅で少しずつ調節することをお勧めします。
まずは設計時に想定されている抜き方に
フルートにしてもピッコロにしても、設計上想定された抜き具合でピッチがチューナーに大体合うようであれば、それほど歌口の角度や吹き方は間違っていないと言えます。逆にただ高いから抜こうという判断でどんどん抜いてしまうのは危険です(低いから入れよう、も同じく注意です)。その時のピッチは合うかもしれませんが、音の質を犠牲にしたり、楽器のスケール(音の幅)が変わってしまいます。まずは標準の抜き方で適切な角度にセットして、大体正しいピッチで吹けるように息のスピードなども調整できると良いと思います。
楽器の三角印△に惑わされないで!
三角印△に合わせてしまうと…
さて、先程の生徒の場合はヤマハの木管ピッコロを使っていて、頭部管の「三角印」と胴部管の「点」を律儀に合わせて吹いていました。フルートでもこの印の呪縛に囚われてしまう人が多いのですが、これに合わせなければいけない訳では決してありません(少なくとも私はその角度では吹けません・・・上手に吹けているのならそれでも勿論良いですが、今のところそこに合わせていて上手く行っている例をあまり見たことがありません)。
筆者のピッコロ。胴部管のジョイント部に油性ペンで点をつけています。いつもこの点と頭部管の点を合わせてセッティングするようにして、明るめにしたい時は髪の毛1〜2本分くらい外にしたりします。
ピッコロも指の動かしやすさを最優先に頭部管の角度を調整し、抜き過ぎない
その子の構え方だと、印に合わせた場合歌口がかなり外向きになってしまう状態でした。それによって音が明るくなりすぎてピッチも爆上がりしていたという訳です。印よりも少し手前に歌口を向けて、抜き具合も半分くらいにしてみると、だいぶ音も落ち着きました。
ピッコロはチューナーの真ん中より少し高いくらいで吹いてあげると、全体のサウンドに馴染みやすいので、いつも真ん中を狙う必要はありません。しかしその子に関しては中音域の「ド」がメーターで+30セントくらいまで振り切っていたので、適した角度と抜き方でまずは+10〜20になるように息を調節して行くことを課題にしました。いつでもチューナーを頼りにする練習はあまりして欲しくないのですが、方向性を見失ってしまった時には客観的に判断できるので良いと思います。息の向きやスピード・量などが行き過ぎているとピッチも上がるので、それを落ち着かせていく基準にはなります。
逆に下がってしまう場合
今回の記事は抜いても高い人を想定したものですが、高いのを下げるのはそれほど難しくなく、下がってしまうものを上げる方が大変かもしれません…。歌口が手前に傾き過ぎている、歌口を顎に押し付ける傾向がある、顔が俯いている、息の角度が下に向き過ぎている…などなど原因は色々考えられますが、こういう傾向にある時は本人が吹き心地や耳障りの良さを求めた結果であることが多い感じがします。これはなかなか変えていくのが難しいので、一人で悩まず信頼できる先生に相談することをお勧めします。
【まとめ】ピッチが定まらないのはアンブシュアのせいではありません
ピッチの問題は頭部管の反射板の位置がずれていたり、楽器の調整が合っていない可能性もあるので、色々な角度から原因を探る事が必要です。アンブシュアが悪いせいだ…と思ってしまうかもしれませんが、8〜9割は楽器の角度や頭部管の抜き差し、息を下向きに吹き過ぎているなどの極端なコントロールが原因です。落ち着いて原因を探って、楽々吹けるようになりましょう!
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