生徒さんの課題から、超速い音階の練習方法についてご紹介します。
オーケストラの定番、ムソルグスキー作曲(リムスキー=コルサコフ編)の「禿山の一夜」はフルート・ピッコロ大活躍な曲ですが、速い音階を吹かなければならない箇所がたくさん出てきます。楽譜の音価通り、超正確に吹かなければならないものではないですが、適当すぎて音が抜け抜けになってしまうと格好悪いので、手順を踏んで練習しましょう。
まず敵を知ろう
何が難しいのかをしっかり整理してから練習方法を検討しましょう。普段音階練習をしている方なら、初めて出会う音階ではないはずです。
冒頭部分の音階
終始この曲中に登場する音型の一つ。拍子が2/2で1拍がおおよそ90くらいなので、かなり速く音の上がり下がりを吹かなくてはなりません。シ♭が絡むので、左手の親指をどうするかも迷います。
Bの部分の音階
この形も何回か登場します。ここはとにかく運指が嫌い(笑)。そしてタイミングも難しいですね。
Eの部分の音階
Fに入る前までの、この畳み掛けるようなg-moll(ト短調)っぽい音階。運指は難しくないのですが、テンポの中で決めるべき音を正確なタイミングで当て続けるのが少々難しいです。
「禿山」の音階を吹く時のルール
オーケストラでこれらの音階を演奏する際、完璧に吹くことは求められていません(プロでも全部パーフェクトで吹くことは難しい・・・)。それよりも、すばやく上行・下降する音階によって表されるうねり、装飾音符を伴った音の鋭さのようなものが表現できている事が最も重要ではないかと考えます。なのでこの曲に出会って愕然としている方は、まず以下のルールを守れるように頑張りましょう!
- 32分音符は正確なタイミングでなくてよいので「なるべく」速く吹く
- 合奏中は多少音が抜けても気にしない(個人練習ではちゃんと音を並べましょう)
- 前後に速い音があっても、大きな拍上の音だけはちゃんと合わせる
各部の練習方法
冒頭部分の音階
攻略のポイント
- ブリチアルディキィ(左手の親指のキィ、B♭用)を上手に活用する
- まずはゆっくり正しく吹く
- 32分音符を16分音符にしてインテンポをめざす
1. ブリチアルディキィを使う場所、使わない場所を分かりやすくメモする
上の楽譜には赤字で●と○が書き込まれています。普段は鉛筆でつけますが、私はいつも曲中でブリチアルディキィを使用する箇所に●・使用しない箇所に○をつけておきます。これはこれまでの経験上、本番で緊張した時に迷わないための予防策です。シ♭の指はなるべく簡略化するべきなので、ここでは積極的に使います。ただしいずれも次の小節では使えないので、ラを伸ばしている間に親指を右にスライドします。
2. ゆっくり正しく吹く
どの難しいパッセージを練習する上でも、基本原則は「ゆっくり正確に」。インテンポは2分音符=90前後ですが、ここでは例えば4分音符=90、つまり半分のテンポに落とすなどして吹きます。
- 絶対間違えないテンポにする
- ちょっとでも転ぶ(正しいリズムで吹けていない)ならテンポを落とす
- 成功確率100%をキープしながら、少しずつテンポを上げる(インテンポまでいかなくてOK)
3. 今度は32分音符を16分音符にした形でインテンポをめざす
ゆっくり練習するだけではここで求められるスピードを会得できないので、実践に近い練習も並行していきます。例えば以下の譜例のように、32分音符を16分音符にしてみます。
実際にインテンポで吹く際には、ほとんどこの譜例に近い形で、できるだけ細かい音符を後ろに寄せる努力をする、という感じになると思います。正しく吹く練習を4分音符=100くらいでできるようになったら、こちらの譜例を2分音符=60くらいから練習してみましょう。
16分音符のタイミングにはあまり拘らず、1拍目・2拍目の4分音符のタイミングは絶対にメトロノームからズレないようにしましょう!練習時は強弱も正確につけておくとより実践的です。めざせインテンポ!
とにかく大きな拍、ここでは1拍目・2拍目の4分音符がテンポから外れないことが大切です。これは合奏に入った時も同じです。
Bの部分の音階
攻略のポイント
- まず核になる音だけを正しいタイミングで吹けるようにする
- 1音ずつ音を増やしていく
1. 核になる音だけを正しいタイミングで吹く
この箇所の難しさは運指だけではなく、そのタイミングです。この箇所のゴールも正確に全てを書かれたタイミングで吹くことではなくて、2拍目の裏の8分音符のラと、次の小節の頭のミ、この二つがちゃんと拍通りに当たること。その前後の音符がそれっぽく吹ければなお良いです。やみくもにこの音の羅列を練習すると、いざ合奏に入った時に狙いが定まらない事態になりますので、まずはこの2音を正しいタイミングで吹く練習をしましょう。
【STEP1】簡略化した譜例です。まずこれをインテンポで吹けるか確認してください。この2音を元にして練習を進めていきます。
必ずメトロノームを使ってください!吹奏楽やオーケストラでは、他者(指揮者や周りの人)のテンポに合わせられるかが重要です。メトロノームはその代わりになってくれるのです。
2. 1音ずつ音を増やしていく
【STEP2】さて、今度は上記の楽譜に少しずつ音を足していきます。楽譜ではラの前にソが増えています。この容量で、次はファソラ、次はミファソラ・・・と、手前の音を1つずつ足していきましょう。核の音のタイミングは絶対変えません。
これがインテンポ近くで出来ればゴールは見えてきます!
【STEP3】今度はこちらのパターン。これはゆっくりのテンポから練習すると良いです。最後のミを正確に頭拍に入れるためには、8分音符のラを吹いてから3連符のラに移るまでに殆ど時間が無い事が分かります。
あとは前後を合体するだけ!
このように音符を分解し、まず核になる音のタイミングを理解して、少しずつ難しくしていく、という手順を踏みましょう。
Eの部分の音階
攻略のポイント
- まず核になる音だけを正しいタイミングで吹けるようにする
- 1音ずつ音を増やしていく
こちらもBの部分と基本的に同じ手順を踏みます。
1. 核になる音だけを正しいタイミングで吹く
【STEP1】核になる音、つまりメトロノーム(指揮者)とズレてはいけない拍上の音のみにしました。まずこれらを正確に吹けるでしょうか・・・?
2. 1音ずつ音を増やしていく
【STEP2】核の音のに1つ前の音をつけました。インテンポくらいで吹けるでしょうか・・・?
【STEP3】もう一つ音を足しました。ここまではインテンポで行きたいところです。これができたら、同じようにさらに前の音を足していきましょう。どうしても難しければテンポを落としても良いですが、ここは瞬発力が求められる場面なので頑張りどころです・・・!
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回のようにただ速い音階が吹ければ良いわけではなく、狙うべきところは狙いながら速く吹くという時には、狙いどころを起点にして練習していくと良いと思います。真新しい練習方法ではないですが、似たような場面では使える方法ですので是非お試しください。
敵を知り、正しいアプローチで練習を組み立てましょう!
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