いい音を出そう!と思えば思うほど、吹き方が分からなくなる・・・フルートだけでなくどの楽器でも起こりうる悩みです。そういう時は大抵何かやり過ぎていたり、考え過ぎだったり、聞き過ぎだったりするものなので、不必要な事をなくしていくしかありません。そんな時に私がしているアンブシュアリセット方法を5つご紹介します。
そもそも何故見失いがちなのか
フルートのアンブシュアがフリーすぎる問題
フルートは特にアンブシュアがフリーすぎるが故、100人100通りのアンブシュアが存在します。ジェームズ・ゴールウェイも、エマニュエル・パユも、みんな見事に違います。一流プレーヤーがどんなに難しいパッセージも難なく吹きこなせるのは、その人がその人の自然なアンブシュアで吹く状態を手に入れているからです。誰かの真似ではなく、あるがままの唇を使って吹くことができているのです。
アパチュアは真ん中とは限らない
リッププレートを当てる場所がわからない、自分の唇の形が変な気がする、アパチュアが大きいまたは小さい気がする、とりあえずいちいち唇が力んでしまう・・・
・・・色々感じながら、悩みながら我々は日々吹いています。唇の在り方やリッププレートの位置について悩んでいる方には、是非まずデニス・ブリアコフの演奏を見て頂きたい!彼のリッププレートの位置はなかなかに個性的です。勘違いしてはいけないのですが、わざわざそうしている訳ではありません。彼の中では最もその位置が自然で、顔の筋肉や唇の形、歯並びや顎など、すべての条件を合わせた時に最も効率よく吹ける状態がそうだったのだと思います。それを見つけることができたから、今でも素敵な演奏ができるのです。
一方でエマニュエル・パユはど真ん中で、アンブシュアも本当にナチュラル・・・パユ様はフルートに特化して生まれてきているのだと思います。つまり、なおのこと一般人が真似するのは危険ということです。
人の音を真似せず、自分にしか出せない音を追求しよう
誰かの音に憧れて、あんな音が出したい…!という目標を持って吹くことはとても大事なことです。しかし、決してその人と同じ音が出せるわけではないこと、つまり誰にも真似できない自分にしか出せない音が必ずあるということが大前提です。こんな音が出したい、もっと良い音が出したい、と思うよりも、自分の唇、息、身体…を出来るだけ自由に使える状態を目指すことが、自分のベストサウンドに繋がるのではないでしょうか。かくいう私も迷ったり見失ったりまた見つけたりを繰り返してきました。1人で悩まず、音楽仲間や先生と一緒に探していけるのが理想です。
5つのアンブシュアリセット法
さて、アンブシュアが悪いのかな?とか、音が鳴るポイントが狭くなってしまっている、よく分からない!と感じているときは、何かやり過ぎていたり、考えすぎていることが多いです。そんな時に必要なのは新たなやり方を探すのではなく、フルートを無理に吹こうとしていない状態に戻してあげることです。そこで、私は以下のようなことしています。
吹きながら歩き回る
マーチングのようにビシッとする必要はありません。のんびり歩きながら、いつも吹いている曲を吹いてみましょう。多少音が掠れても気にしません。
吹きながらスラスラ歩けない場合は不自然な構えをしている可能性があります。もちろんフルートは顔を少し左に向けて構えるので、正面に構える楽器よりは歩きにくいです。でも、無理なく構えられていれば、吹きながら歩くのは造作もない事です。
吹きながら首を左右に振る
これは自分の首が一番楽なポジションを探すのに有効です。両耳の穴を結んだ辺りに頭蓋骨と背骨の境があり、そこを基点にして首を左右に倒してみましょう。首が前傾/後傾し過ぎているとスムーズに動けません。そして首を動かしながらフルートを吹きましょう。楽器の位置は変えず、首だけを動かします。多少音が掠れても気にしません。
首の状態が不自然だと吹きながら動かせません。いつでも動かせる状態にしておくと良いです。
吹きながら頬に空気を溜めたり出したりする
唇の周りに不必要な強張り(こわばり)がある時に行います。通常頬を膨らまして吹くことはほぼ無いのですが、敢えてやってみましょう。ギリギリ音が出るくらいを攻めます。
頬の空気を自在に出し入れ出来ない場合は、アンブシュア周りにかなりの緊張があります。ここではあまり音の質には拘らず、息を吐きながら動かせる場所を増やしていくことに集中しましょう。
吹こうとしている音(もしくはフレーズ)を声にだして歌ってから吹く
その人の声と楽器の音はやはり関係があると思うのです。上手に歌えなくても良いので、こんな音が出したいなと思いながら歌ってみましょう。そしてその時の身体の使い方、息の吸い方、身体のどこに響かせているのか、その時の声帯はどんな感じなのかなどを観察して、そのまま楽器に応用してみましょう。
わざと音を割る
これは特に好きな練習で、生徒さんにもよくやってもらいます。低音域の音を鳴らしながら、そのオクターブ上の音も一緒に鳴らす練習です。イメージとしてはオクターブ上の音に跳躍しようとして失敗した状態。これをわざと再現することに大きな意味があります。
フルートはいかに倍音を操れるかが音の豊かさを左右します。低音域を狙い過ぎたり、中音域を狙い過ぎる事によって、倍音が乏しくなり、それを唇でどうにかしようとしてよりタイトになってしまう…負のスパイラルに陥りがちです。そんな時に、オクターブ同時鳴らしは有効です。
以上5つです。耳が自分の音色にフォーカスしすぎているだけだったりするので、音を聴きすぎずに自分の体の状態の観察に注意を向けるためにこれらの方法を行います。やってみると、「あれ、別に調子悪くなかったみたい」と思うこともありますし、「意外と首が前に出ていたかも」など不自然な部分に気がつくこともあります。
アンブシュア・アパチュアは無理に作るものではありません
そして、アパチュア(上下の唇の間の穴)の大きさを故意にコントロールするつもりで吹いていると、大抵不調になるように思います。アパチュアは自然に閉じた唇の間を、息が割って出てきたら勝手にできるものです。息をたくさん吐いたら大きくなり、少なくすれば小さくなります。少ない息でスピードをキープするにはまた技術がいりますが、アパチュアの原則だけを考えたらそう言えると思います。きちんと息を使えていないとアンブシュアで無理をすることになってしまいます。
フルートの練習は、自分が最も自然な状態で吹くことを目指していくものです。誰かの音を目指すのでも、誰かの吹き方を真似するのでもありません。自分の中のベストを探していきましょう!
「良い音を求める」という言い方をすることもありますが、求めていってしまうとあまり良いことが無かったように思います。誰しも既に自分にしかない音を持っていて、それを最大限引き出すにはどうするかを考えていきたいですね。
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