フルートを吹いていて気になるのは、やはり自分の音の「雑音」ではないでしょうか?もちろん始めたばかりの方ですと、効率よく息が音にならず、音にならなかった息が雑音となってしまうことはあります。しかし、「雑音」だと思って無くそう無くそうと努力していた音が、実は大事な音の成分かもしれないのです。
こんな症状はありませんか?
なんか吹きづらい…
私はフルートを20年以上吹いてきて色々な状態を経てきましたが、特に調子の悪い時はこんな症状を経験しました。
- 唇が硬くなる
- 唇の周りに変な力が入る
- ブレスの度にアンブシュアを作り直さないと吹けない
- タンギングが多い音が辛い
- オクターブが上がれない、掠れる…
上記の症状がある時、私自身や生徒さんの中には「雑音を無くしたい」という潜在意識が強くある場合があります。しかし、それはそもそも無くすべき「雑音」なのでしょうか…?
○○さんみたいなツヤっとした音が出したい、キラキラさせたい、芯のある力強い音が出したい…さまざまな理想があると思います。もちろん理想を描きながら練習することは大切なことなのですが、フルートにおいて最も気をつけなければならないことがあります。
\ フルートの不調改善のヒント /
自分に聞こえている音と、他人に聞こえている音は違います
皆さんは自分の声を録音したものを聞いて愕然とした経験はないでしょうか。自分のフルート演奏を録音して聞いたことがある人は、聞いてどう感じたでしょうか?自分が耳で聞いている音色そのものでしたか?
恐らく違う声・音に聞こえたと思います。自分の声は特に、自分の体内で反響している音も耳が拾っているので尚更ギャップがあるのですが、フルートでも近いことが起こるようです。そしてそれはどの楽器でもそうだと思うのですが、フルートに関してはそのギャップが特に大きいと感じます。つまり、自分の耳に心地の良い音でも、他の人の耳には心地よくないという事が起こりうるのです。
私は中学生の頃、習っていた先生とのあるやり取りをとてもよく覚えています。
(あぁー…今日の音はバサバサして全然良くない…どうして…)
今日は良い音出てるねぇ!
えぇっ、そ、そうなんですか…?(全然良くないと思うんだけど…)
自分では雑音だらけで絶不調と思っていたのに、本番を聞いていた人に絶賛されたという経験はありませんか?または今日はとっても良く吹けた!と思っていたのに、「ちょっと音色暗かったねぇ」とあまり評判が芳しくない。こういったことはよくあります。
自分に聞こえている音と、人に聞こえている音にはギャップがある
「雑音」の正体は「倍音」かもしれません
「雑音」だと思っていたものがそうじゃないのだとすると何なのか。それは「倍音」です。これについてはこちらの記事を参考になさってください。「倍音」は一人一人のフルートの音色を構成する大切な音の成分です。「倍音」が豊かな音は聞いている人の所へ気持ちよく届いていきます。しかし、「倍音」が少ない音はすぐに墜落してしまって良い印象を与えにくくなってしまいます。
楽器の素材が硬いほど、倍音が「雑音」に聞こえやすい
これは私が大学院の頃に経験した事です。修士の修了演奏会に向け、モーツァルトのフルート四重奏曲を練習していました。現在は総銀製を吹いたり木管を借りたりしていますが、当時は14金ボディのフルートを吹いていました。そして、いまいち自分の音が弦楽器の皆より浮いてしまって馴染まないことが悩みでした。ちょうどその頃に、ある記事を読んで面白い事を知ったのです。
硬い金属ほど倍音が豊かになり、人の耳にもよく聞こえる
出典は忘れてしまいましたが・・・
それを読んで、もしや私は今まで倍音を無くそうとしていたの?と気が付いたのです…。
いままで「シャー」と聞こえないように吹こうとしていましたが、私は頭部管の角度を思い切って変えることにしました。割と本番間際だったのですが、良い音になるなら待ったなしです。ほんの少しだけいつもより外向きに頭部管をセットしました。するといつもよりも「シャー」と空気の音が増しましたが、録音して聞いてみるとこちらの方が理想に近かったのです。
雑音が多い音=倍音が豊かな音?
それならとにかくシャーシャー吹けば良いんだ!
・・・というシンプルな話でもないのが難しいところなのですが、ある程度吹ける方で以下のような悩みがある方は、自ら倍音を減らして吹いている可能性があるので、多少「シャーシャー」吹くつもりの方が良いかもしれません。
- 音が細い
- 音が伸びていかない
- ピッチが下がって聞こえる
- 音が暗いと言われる
- 大きな音が出ない
これらは倍音を抑制しがちな生徒さんに多い状態です。近くで聞いているとまとまっていて綺麗な音に感じるのですが、アンブシュアに無理があったり、頑張って吹いているつもりでも演奏に力が無かったりします。
倍音が豊かな音は遠くまで響きます
倍音が多く含まれる音は大きく聞こえます。これは物理的にもハッキリ分かっていることで、フルートの低音域についての以下の記事にも書いています。
しかし倍音がよく鳴る楽器ほど奏者にもそれがよく聞こえてしまうがために、それを心地よく思わないと雑音と判断され、排除しようとしてしまいます。先ほどの素材と倍音の関係の話に戻ると、金は銀より硬いのでより倍音がたくさん出ますが、自分の耳にはあまり心地よく聞こえないかもしれません。そういう意味で銀製フルートというのは非常にバランスの良い楽器です。もっと軟らかい素材、例えば木管になると、もっと自分の耳に優しくなります。倍音を雑音と捉えにくくなるのかもしれません。
いずれにしても、自分がもっとも良い倍音を生み出せる楽器と出会えることはとても重要で、それこそ誰かの真似では見つからないのです・・・。〇〇先生の選定品的な楽器も、楽器の機能としては間違い無いかもしれませんが、それが自分に合っているかは別問題。
かと言ってすぐ買い換えられるものでもないですし、そう簡単に理想の1本には出会えません。なので、今お持ちの楽器を最大限良い音で響かせる方法を考えていきましょう!
「雑音」と思っていたものは「倍音」かもしれません
倍音を豊かにするには
さて、倍音豊かな音にしていくためにはハード面(楽器のセッティング)とソフト面(音の聴き方)双方からのアプローチが必要です。倍音が出やすいセッティングにすると今までと聞こえ方が変わるため、これで良いのかなと不安になります。しかしそれを自分の主観で判断するのは難しいので、信頼できる音楽仲間や先生に協力してもらう事をおすすめします。
頭部管のセッティングを変えてみよう
倍音が乏しい人の場合、多くは歌口のエッジを自分寄りに近づけている傾向があります。自然に吐いた時の息の方向には個人差があるため、問題なく吹けていればそのままで構いません。しかし前述したような問題を抱えている場合は、頭部管の角度の変更も考えてみましょう。
こちらの記事で頭部管の角度と音色の関係については記述していますが、図を再掲します。頭部管を自分より向こう側にすると一般的には倍音が増しますが、やりすぎると本当の意味での雑音も増します。反対に、自分側にすると音も内向的になりやすく、行きすぎるとピッチが下がり音色も暗くなり、高音域も出にくくなったりします。
今よりも明るい音にしたいのであれば、1ミリ、あるいはもっと小さい単位で頭部管の角度を外向きに変えていきましょう。ここいいかも?という角度が見つかったら、それで暫く吹いてみましょう。
多少の空気音は受け入れて、音の芯の部分を聴こう
次はソフト面の部分です。倍音が鳴っている状態を自分の耳が受け入れらるかどうか、ここが一番ブレやすく難しい点です。。ここの部分に関しては出来るだけ自分一人で判断せず、信頼できる音楽仲間や先生に聞いてもらって、客観的にどう聞こえているのかを教えてもらう方が良いです。
人はリアルタイムで自分の音をジャッジしていて、少しでも自分の理想と違うと無意識にそれをどうにかしようとします。結果、必要以上にアンブシュアを気にしたり、不必要な力が入ったりしてしまうのです。
「今の音の方が前より良いよ」と言われてもなかなか受け入れられないという方は、
- 自分に聞こえてくる音がそのまま相手に聞こえているわけではない
- 多少バサついていても気にしないで吹いてみる
- 空気の音ではなく、音の芯の部分をよく聞く
・・・という事をいつも忘れないように基礎練習や曲の練習をしてみましょう。周りの人から良い反応が貰えたらより自信が持てるようになり、その聞こえ方を受け入れられるようになりますよ!
方向性が間違っていないかのチェックポイント
頭部管の角度を倍音が出やすい状態にして、その倍音を無くさないように吹けるようになったかどうかは、以下のような変化があるかどうかでチェック出来ます。
- 頭部管を殆ど入れないとピッチが合わなかったのが、5〜7mm抜けばピッチが合うようになった
- チューナーでチェックした際、オクターブの音程が大体同じ(オクターブで指が変わらない音)
- オクターブの跳躍が楽になった
- 大きく吹けるようになった
- 音が明るくなった(と言われた)
- 唇が疲れなくなった
- タンギングにそれほど神経を使わなくなった
- 息が吸えるようになった
- リッププレートを当てる位置をあまり迷わなくなった
…倍音を味方につけられると、こんなにたくさんの効果があります。もし上記のような効果が感じられなかった場合は、誰かに自分の音を聞いてもらったり、離れたところから録音した音を聞くなどしてみましょう。それでも変化がなかった場合、もしくは逆に満足いかない結果だった場合はその方向性が違っているかもしれませんので、無理して現状を変えないようにしましょう。
頭部管の角度を見直して、倍音が聞こえることを受け入れよう
倍音を味方につけて、豊かな音色を目指しましょう
音色を左右する要素はもちろん他にも色々ありますが、今日は少し的を絞ってお話ししました。自分の音をどのように捉えているかというのはかなり音色に影響を及ぼします。自分の主観で判断せず、録音したり、聴いてもらった人に感想を求めたりして、常に客観的な視点をもってこの問題に取り組むことが大切です。
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