長年管楽器を吹いていますが、子供の頃に身についた演奏習慣は、恐ろしいことに根拠なく大人まで続いてしまっていることがあります。椅子の前半分に座りなさい、脇は開きなさい、背筋を伸ばしなさい…などなど。しかし、それらの習慣が自分の身体に合っているのかどうか検証する人は少ないです。あなたの演奏習慣が実は自分に合っていないとしたら…?
「椅子の前半分に座る」が合わない人もいる
かつて私が子供の頃は、みんな椅子の前の方に座るよう教わっていましたので、背もたれに寄りかかって演奏していると注意されたものでした。前の方に座ることに何の違和感も感じず、ただ言われるがままそうしていました。結局私にはそれが合っていたことが後からわかりましたが、同時に合わなかった部員もいただろうなということに気がつきました。
現在指導の現場では好きな座り方にしてもらっています。前の方が呼吸がしやすいフルートの生徒もいれば、背もたれまで深く座った方がハイトーンがバシバシ当たるトランペットの生徒もいます。どちらも試してみると良いと思います。
椅子の前に座るか後ろに座るかは人それぞれ。より良いパフォーマンスが出来る座り方を選ぼう。
「背筋を伸ばしなさい」は危険
「良い姿勢で」吹きなさい、これはついつい指導者が言ってしまうワードですが、これは危ない言葉です。多くの生徒は「良い姿勢」と言われると、背中をまっすぐピンと伸ばしたような姿勢を連想します。しかし、これは自然な人間の身体の状態ではありません。背骨は適度にカーブを保っている事が理想なので、伸ばそうとする事は身体に無理をかけることになります。
適切な呼吸、無理のない楽器の保持のためには、背中に不必要な力は入れず、背骨は自然に柔軟な状態にしておきましょう。もちろん背中が丸くなりすぎるのも良くないですが、伸ばしすぎる方が有害であることの方が多いように思います。
「背中をのばす=(楽器を吹くのに)良い姿勢」ではない!あくまで自然なカーブを維持することが大切です。
「脇を開きなさい」は正解?
脇を閉じてしまうと肋骨を圧迫し呼吸がしづらくなるので、開くように教わった(もしくは教本で見た)経験から、私はなんとなく脇を開こうとしがちでした。しかし、4スタンス理論から得たヒントによると、それは私のタイプ(A1)にはどうやら合っていない模様。そこで最近意識的に脇を自然に閉じた状態で構えるようにしてみたところ、あれ、なんかこの方が吸いやすいかも、という発見がありました。
閉じると言っても力で閉じるのではなく、ただ腕を降ろしておくだけです。もちろんぐーっと肋骨を圧迫するのは良くありませんが、脇を開かないでおくことで肋骨が圧迫されるという事はありません。なんだか呼吸が浅いなと思う時は、脇の開き具合にも注目してみると良いかもしれません。
人によっては脇を開く事は不正解なことも!呼吸が無理なく出来る腕の位置を探りましょう。
それまでの「常識」を疑ってみることも大事
近年はスポーツの分野を中心に体の使い方についての研究が進み、より効率よく、怪我なく力を発揮する方法が世に知られるようになってきました。もちろんそれらを盲信して自分の体と向き合うことを忘れてしまうと、たちまち分からなくなってしまうこともあるので気をつけたいですが、少なくとも20年前とは全く常識が変わってきたと言えます。
しかしながら、指導の現場ではまだまだ「かつての常識」が根拠なく踏襲されていることも珍しくないので、我々指導する立場の人間もどんどんアップデートをする必要があります。「こうすれば上手くいく」なんて単純なものではなく、ひとりひとりの身体に合った立ち方、構え方、呼吸、演奏スタイルを丁寧に探していく事が大切なのだと思っています。
習っている先生の演奏方法が合わないことなんてしょっしゅうあります。なかなかその先生の目の前で「それは私には合いません」とは言えないですし、多くの場合本人もその違和感にも気づかないのですが、だからこそ先生側に大きな責任があります。そして生徒さん側には先生を自由に選ぶ権利がありますから、長年習っているけれどなかなか悩みが解決しない場合は、違う先生に相談してみることも重要な選択肢です。
もしも今何かにお悩みの場合、それまで自分が「こうだ!」と何気なく信じていたことを疑ってみると、大きなヒントを得られるかもしれません。
自分が心地よく吹けているかどうか、身体の声をよく聞こう
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