突然ですが、タンギングもしくはアタックが得意だと自信を持って言えますか?または毎日ちゃんとタンギングの練習をしていますか?なかなかそういう方はいないのではないでしょうか。吹奏楽部を訪れると、いわゆるロングトーン(モイーズ大先生の「ソノリテ」のコピーが1ページだけファイルに入っているのを何度か見てきました)は一生懸命しているようなのですが、タンギングは軽視されがちです。
しかし、私はタンギングの練習、それも短いスタッカートの練習の方がよほど大切だと考えています。長い音符を安定して演奏することも勿論大切な技術で練習が必要なのですが、短い音のクオリティーを良くする方が効率よく上達すると思います。この記事ではその理由と練習方法についてお話します。
タンギング・短い音が大切な理由
まず何故タンギング、短い音が大切なのか。それはその人の音の質・個性が詰まっているからです。
昔こんな実験があったそうです。いろいろな楽器で同じ高さの音を伸ばしたものを録音し、吹き始め、つまりアタックの瞬間をカットしておきます。音の鳴り始めではなく、中間部分だけを聞き比べてもらって、楽器の違いが聞き取れるかどうかを実験したんだそうです。すると、殆ど楽器の違いを区別ができなかったというのです。この実験から言えることは、人間は楽器の音を鳴り始めた瞬間に判別しているようだということです。
実験では異なる楽器での聞き比べでしたが、フルートに限定した場合でも、例えばいろいろな人のラの音のロングトーンを録音し、中間部分だけを取り出したものを聞き比べた場合、誰の音かを当てるのは難しいでしょう。
ということは、良い音だなーと思う人の演奏は、少なくとも美しいタンギングで演奏されているのではないでしょうか。美しいタンギングができたら、その音を持続すれば良いのです。またそれも必要な技術ではありますが、まずは入り口をきれいにする練習をたくさんしておくのが早道なのです。
タンギングの回数が多い曲の方が良い音で吹くのが難しい
スラーの多い曲とスラーが少なくタンギングが多い曲ではどちらが吹きやすいでしょうか?例えばフォーレの「シチリアーノ」のようなロマンティックな作品と、モーツァルトやバッハのようなタンギングを多用する作品です。人によるのかもしれませんが、私は後者の方が苦手でした。曲の最後まで音色のコンディションをキープして吹くのがとても難しく感じていました。
きれいにタンギングしようとするあまり、アンブシュアを意識しすぎると余計な力が入りやすく、タンギングの度に口輪筋にストレスがかかります。スラーが多い曲ではその回数が少ないのでなんとかなっても、バロック時代や古典派の音楽ではその回数が多いため疲労が溜まりやすいのです。疲れてくると余計唇を締めたくなってくるので、どんどん音色も散ってしまいます。
タンギングをした瞬間に効率よく楽器を響かせる事ができれば、タンギングが多くても、スタッカートが続いても、疲れる事なく演奏し続ける事ができるはずです。しかし、意外と短く吹いた時にちゃんと音が鳴っているかどうかに気をつけて練習できていないのです。
具体的な練習方法
この練習の効果
私が考える美しいタンギングとは、音色が美しく且つアンブシュアが疲れないタンギングです。どんなにタンギングの回数が多くても疲れない響かせ方を、タンギングの練習によって習得することが目標です。そしてそれを習得することにより、どんな跳躍音形も、発音が嫌な音から始まるフレーズも得意になってしまうかも!というお得な練習です。
練習方法
とは言え、楽譜上は特段新しい練習ではないと思います。まずはいつも生徒さんにお配りしているテキストをご覧ください。
STEP1:タンギングをしないで短く吹く(ノンタンギング)
タンギングの練習ですが、まずはタンギング無しで、息を吐くだけでできるだけ短く鳴らします。意外とタンギングをしないで吹くのが難しい方もいるかもしれません。タンギングをする事と息を吐く事が連動してしまっている状態なので、その場合ひとまず短く吹けなくても良いことにして、息だけで音を鳴らせるようにしましょう。
何故舌を使わない練習をするのかというと、発音の要素のほとんどが息だから。タンギングは発音の質を決めるものではありますが、そこに息が伴っていないとカサカサな音になってしまいます。なので、まずタンギングをしないで息だけで中身のある良い響きの音を出せるように練習する事が早道です。
この練習をする際に気をつけると良い点を以下に挙げておきます。
- どの音から始めてもOKですが、最初のH(シ)の音が難しければ下の方の音から始めましょう
- できるだけ短く吹きましょう(その方がより難しく、効果的です)
- 唇の状態が気になってしまう場合は、とにかく息遣いに集中しましょう。きれいなタンギングは唇ではできません!
- アパチュア(唇の隙間)が狭すぎないか気をつけましょう。音がうまく鳴らない時は締まり過ぎている事が多いです
- 歌口のエッヂに息を集める意識が強いと詰まった音になりやすいので、エッヂより10センチくらい先まで息が届くつもりで吹いてみましょう
- 音によって得意・不得意があるはずです。得意な音の質に不得意な音を近づけられるよう、よく聞いて練習しましょう
- 中音域を吹こうとしているのに低音が鳴ってしまう場合、息が少ないか口の中を広げすぎているかもしれません。「エ」や「イ」の母音を発音するような状態を試してみましょう(実はここが一番重要かも!)
STEP2:タンギングをつけて短く吹く
いよいよタンギングをつけて吹いてみましょう。しかし、タンギングをつけていない時より良い音が出ないという現象が起きることがあります。これにもいくつか原因がありますので、以下のことに気をつけてみてください。
- STEP1の練習の時と同じように息を吐けているかに注意しましょう(息が少なくなってしまう方が多いようです)
- STEP1の練習の時と同じように口の中の広さ(狭さ)を保てているかどうかに注意しましょう(実はタンギングを「トゥ」だと思っていると良い音が出ません・・・「ウ」の口は忘れましょう)
- 舌は離すだけですので、余計な力は抜きましょう(力強く動かしすぎていることがあります)
タンギングをつけても、STEP1で得られた響きを維持できているようであれば、概ね良い感じでタンギングができていると思います。タンギングをつけると余計にバサバサしたり狙った高さの音が出なかったりする場合は、上記の注意点を今一度確認してみましょう。
STEP1の練習が非常に大切で、ノンタンギングの際に音の鳴り始めがスムーズかどうか、中身のある音になっているか、アンブシュアで余計なことをしていないか、よく注意して吹いてみましょう。
タンギング練習テキストダウンロード
教室の生徒さん全員にお配りしているテキストです、ダウンロードをしてお使いください。なお、無断転載はお控えください。
まとめ:タンギングの練習が良い音色への早道
- タンギングがその人の音色を決めると言っても過言ではありません
- しかしタンギングの練習で最も大事なのは、舌使いよりも息!
- 舌を使わないで音を鳴らすノンタンギングの練習をたくさんしましょう
私もあまり練習時間が取れない日は、この練習だけしてさらわなければならない曲に移ります。音を長く伸ばす練習よりも効率よくコンディションが整いますよ!
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