フルートは支えるのが大変難しい楽器です。いわゆる「3点支持」と呼ばれる方法で支えるのですが、
- フルートが転がりそうになってしまう
- 左手の人差し指の付け根や、右手の小指が痛い
- 左手の親指でもフルートを持つ感じになってしまっている
…と、このようなお悩みを抱えている方が多いです。つまり「3点支持」が上手くできていないのです。上手く支えられないと、演奏は快適ではなくなり、良い音を出すことも難しくなります。
3点支持と言われると3点全てが大事だと思うかもしれませんが、実際には右手の親指がキモ!右手の親指で上手にフルートを受け止められれば、痛みもなく、指も速く動かせて、響きの良い音で吹くことが出来るようになります!
- フルートを楽に構えるコツが分かる
- 3点支持のキモである右手の親指の位置が分かる
- 理想の位置に右手の親指を置くことができる、楽器のセッティング法が分かる
- フルートを支えるための補助具も必要なくなるかも
右手の親指は意外と「高い」ところに置くと良い

まず私の右手親指の位置を写真に撮ってみましたので、ご覧ください。Gisキィの横のライン上に親指の先を置くイメージです(写真1)。意外と「高い」と思う方もいらっしゃるかもしれません。私もかつてはこのように構えていませんでしたが、当時留学中の友人に教えてもらい試してみたのがきっかけで、変えてみました。
親指の位置を変えてから、演奏する上で良いことがたくさんありました。
- 楽器が転がらない
- 左手の人差し指にかかる圧力が大幅に軽減された
- 楽器の操作性が上がった
- 下顎への圧力が減りアンブシュアが自由になって、音色を自在に操れるようになった
上記のように良いことしかなく、教室の生徒さんにも積極的におすすめしているのですが、なかなか浸透しづらいという現実もありました。特に初心者の生徒さんですと、楽器を落としそうな気がすると仰る場合もあります。なのである程度楽器に慣れていて、お互いの信頼関係ができたうえで、演奏上の問題を抱えている場合には提案するようにしています。
最近はようやくその良さに気がついてくださる生徒さんが増えてきて、右手親指の理想的な位置に各自シールを貼ってくださっています(笑)皆さん支えやすくなり、音色も良くなった!と喜んでいらっしゃいます。

親指の関節が柔らかく、楽器に当てると反ってしまう方の場合、指の腹で持とうとするのをやめてみましょう。あくまで指の先…爪のすぐ下で楽器を受け止めるようにします。
右手の親指をここに移動するだけでは、実は解決には至りません…その理由はこのあと詳しく解説します!
楽器の下に親指を置くことで起こる問題


こちらの写真は、よく見かける「右手親指飛び出し型」ポジション。楽器の重さを真下から親指の側面で受け止める構え方です。一見しっかり「持つ」ことができていて、本人的にも落とす心配がないので、一定の人気(?)がある持ち方です。
しかし、この持ち方をしている方には以下のような問題が発生することが多いです。
- 中音域の♯ドなど、左手の親指を離す運指などで楽器が手前に転がりそうになる
- 左手の人差し指の付け根が痛い、真っ赤になる
- 右手の小指が痛む
- 下顎にリッププレートがかなり押し付けられる
- 高音域で左手の親指を離す運指になると、吹く時に音が詰まった感じになる
- 低音域が響かない
以上のような問題を抱えているのであれば、右手の親指の位置を見直すタイミングです。
なぜ親指が飛び出ると問題が起こるのか?
フルートは手前が重い=手前に転がりやすい


ご存知のように、フルートは楽器の自分側にメカニックがついているため、重さがアンバランスです。よほど楽器を傾ける構え方(ロックストロ・ポジションといって、メカニックのバーを真上に持ってくる構え方)をしない限り、常に楽器は自分の方へ傾いてきます。
手前に転がる力をうまく受け止める必要がある
この転がってくる力を上手に受け止めることで、快適な演奏が実現するのですが、実際には多くの指を酷使して「フルートを持つ」ようになってしまっている方が多いです。
フルートの演奏において、左手の人差し指はキィを操作するため、動かしやすい状態である必要がありますし、下顎に楽器が押し付けられすぎると音色が潰れるなどの弊害が起こります。しかし右手の親指が支えとしてうまく機能していないと、他の2点に負担が行くだけでなく、右手の小指や左手の親指にも力がかかります。つまり、いかに右手の親指にきちんと仕事をさせるかが、楽器を快適に構えるためのカギとなるのです。
最適なバランスになるとこんなに良いことが!
右手の親指で効率よく楽器を支えられるようになると、こんなにメリットがあります。
- 左手の親指を離す運指でも転がらない!
- 右手の小指や左手の親指が開放され、操作性がUP!
- 右手の小指や左手の人差し指の付け根が痛くなくなる!
- 下顎にかかる圧力が軽減され、アンブシュアが自由になる!
- 指や顎の緊張が取れ、音が響きやすくなる!
右手の親指の役割の重要性が分かっていただけたでしょうか?楽器が安定して快適に演奏ができるということは、音色が良くなるということに繋がります。
「3点支持」と言ってもいろいろある
「3点支持」は、右手の親指、左手の人差し指の付け根、下顎の3点でバランスを取って支える方法です。しかし右手の親指をどう使うかで、「3点」の負担割合が大きく変わります。私も25年ほどフルートを吹いてきましたが、私自身の3点支持のパワーバランスの変遷を表してみます。
【①押せ押せ型】全部で押し合わなければいけない?
「3点」と言われると、「それぞれに均等に重さがかかる、力を使う」ようなイメージを持たれるかもしれません。
当時の私は、「右手の親指と下顎、左手の人差し指の付け根で押し合う」という言葉の通り、必死で構えていました。その頃の3点のパワーバランスをグラフにすると①のようになります。
その頃は教則本で見た「キィを真上にする」という文言を守ろうとしていました。楽器の転がろうとする力はかなりのもので、それを右手の親指で押し返し、左手の人差し指の付け根で受け止め、下顎で楽器を挟む!といったハードな構えとなっていました。
この時はとにかくあらゆるところに痛みがありましたが、中学〜高校時代の頃なので若さとパワーでどうにかなってしまっていました。


【②親指真下型】押さずに「乗せる」ことにしたものの…
そのうち、押すのに疲れた私は先ほどの写真のように、楽器の真下に親指を置くポジションに移行していきました。しかし今度はバランスが取りにくく、右手の小指に楽器の重さを感じ動かしにくくなったり、左手の親指が離れにくくなったり、人差し指の付け根が痛くなることがありました。
右手の親指が真下にあることにより、楽器が常に手前に転がろうとする力に対して、親指が全く仕事をしていないという状況になっていたのです。その時のバランスをグラフにするとこのような感じになります(②)。
支えに右手の小指や左手の親指も加わってしまい、もはや3点支持ではなくなっています。


【③親指側面型】親指を側面の方に持ってきてみると…
その後も試行錯誤をしているうちに、友人の助言で今の位置(冒頭の写真1)に右手の親指を移動してみました。すると感覚的には③のようなグラフに変わりました。
右手の親指の比率がぐっと上がっていますが、重いわけではなく、楽器が吸い付いてくる感じです。右手の親指が楽器の回転しようとする力をキレイに受け止めてくれるので、他の2点にかかる負担が大幅に減少しました。
もちろん右手の小指や左手の親指は支える側ではなくなって、自由に動けるようになりました。
注意していただきたいのは、親指の場所をかえるだけではこのようにはならず、先ほどのグラフ①のようになってしまう危険もあります。このことについては後ほどご説明します。


右手の親指を高いところに置くためには、セッティングも変える


さて、親指を楽器の真下に置くのはあまり効率が良くないということは分かっていただけたかと思います。しかしこの写真のように、Gisキィの延長線上あたりに右手の親指を移動するだけでは、快適な演奏に結びつかない可能性もあります。
何故かというと、右手の親指の位置は胴部管をどんな角度で構えているかということと密接な関係があるからです。
キィを天井方向に保つ必要性、ありますか?
キィを天井方向に保とうとすると、常に楽器は自分の方へ傾いてきます。そもそもそうしようとすること自体が無駄な努力(!)なのですが、かつての私のようにその呪縛にとらわれている人は多いです。キィを上にしておくメリットはあるでしょうか…?


仮にキィを天井に向かって真上に保ちながら、上記の親指の位置…Gisキィの延長線上に置いてみると、楽器が落っこちそうになると思います。キィの手前にはメカニックがたくさんついていますので、転がってきて当然です。キィを真上に保とうとすることが、むしろ演奏のしにくさに繋がってしまってしまうのです。
程よくお客さん側へ傾けてみると…




そこで教室でもおすすめしているのは、少しお客さんの方へキィを傾ける方法です。傾けすぎると左手の手首に負担がかかるため、「程よく」がポイント。そして右手の親指をGisキィの延長線上に置いてみます。胴部管の角度と右手の親指の位置の最適な関係が見つかると、びっくりするくらい安定します。
楽器の真下に親指を置くのが普通になっていた方にとっては、親指で押す感覚になるようですが、私にとっては先ほど書いたように「楽器が親指に吸い付く」感覚です。「持とう」とする必要がなく、楽器を必要以上に押す必要がないので、3点支持のうち、右手の親指以外の2点にかかる圧力が大幅に軽減されるはずです。
音が出るように頭部管の角度を調整、頭部管に印をつける
もし普段と胴部管の角度が変わった場合には、頭部管の角度も調整が必要になります。右手の親指を楽器の真下に置いていて転がることに悩まれていた方の場合、頭部管を今よりも自分の方へ回転させ、歌口を手前に傾けてあげると良いです。どれくらいかというと、今までより胴部管を向こう側に傾けたのと同じ分だけです。
無理なく支えられて音もきちんと出る角度が見つかったら、必ず頭部管と胴部管の境目に印をつけましょう。おすすめは油性ペンでちょんちょんとつける方法。しばらくすると消えてしまうのでその都度書き足すか、マニキュア等でマークするのも良いです(木製の楽器にはNG!)。
角度が毎日変わってしまうとコンディションの維持が難しくなります。日頃からセッティング用に印をつけておくことをおすすめします。



「歌口とキィが一直線になるように」と解説している方もいますが、その角度で吹ける方は私の経験上むしろ少ないです!
必要であれば足部管も調整


胴部管の角度が変わった場合、右手の小指のキィへの届きやすさも変わっている可能性があります。小指の先がDisレバーの手前(端)に来るように調整しましょう。
こうすることで、テコの原理を利用し軽い力でキィを操作できるようになります。
親指の位置にクセがつくまでは、シールで印をつけてもOK
一旦良い!と思っても、なかなか新しい支え方を定着させるのは難しいことです。冒頭でもお話ししたように、私の教室の生徒さんは親指を置きたいところに最近シールを貼り始めました。示し合わせたように複数人がほとんど同時に貼り始め、静かなブームになっています(笑)。
いつもこの辺に親指を置く、ということが定着するまで、このように印をつけて意識づけをするのはとても良いと思います。
まとめ
「3点支持」ができなくてお悩みの方にぜひお試しいただきたい、右手の親指の場所変更と、セッティングの調整についてお話ししてきました。もちろんこれだけが正解!というわけではありません。快適であればどんな支え方でも良いのですが、もし現状お困りなのであれば試してみる価値はあります。
補助具についての詳しいお話は割愛しましたが、右手の親指の長さが極端に短いなどの問題がある方にはとても便利なものなのだそうです。ただし特にそういった問題のない方には基本的に必要ないと思っています。人差し指の付け根の痛みを軽減するためのシリコンのリング等も売られていますが、それらに頼ることは根本的な解決になりません。
ぜひ最適な右手の親指の位置、胴部管の角度を研究して、器具に頼ることなく快適に演奏できる状態を目指しましょう!



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