どの管楽器もいかに「倍音」を操れるかが勝負になるのですが、フルートにも倍音のコントロールが特に難しい音型があります。今日はその「倍音」が何かというお話と、特に難しい音型の練習方法のテキストをご紹介します。
「倍音」を制する者は「跳躍」を制す!
まずは「倍音」とは何かというお話。ご存知の方は飛ばしてください。私は理系の学者ではなくフルート奏者なので、音楽家として理解している範囲でお話します。
「倍音」「ハーモニクス」とは何か
「倍音」というのは、ある一つの音を鳴らしたときに、あまり聞こえないけれどその音に成分として含まれているいくつかの音のことです。「ハーモニクス」とも言います。この世のどんな音にも含まれています。もちろん私たちの声にも。また、一つの音に含まれる倍音の高さは決まっています。元になる音は「基音」といい、それを「第1倍音」と呼びます。そのオクターブ上が「第2倍音」、そのさらに5度上の音が「第3倍音」…という具合に、倍音は決まった間隔でたくさん存在します(音大生なら第13倍音くらいまでは言えるはずです)。これを「倍音列」といいます。
フルートは元々音域が高い楽器なので倍音は聞こえにくいのですが、例えばトロンボーンで「ドー」と吹くと微かに5度上の「ソー」が一緒に聞こえたりします。
フルート奏者は金管楽器奏者と同じくらい「倍音」と仲良くなる必要がある
金管楽器の方々なら「リップスラー」を日常的に練習しますよね。トランペットなどのピストン楽器なら最低3個のボタンの組み合わせだけであらゆる音域のあらゆる音を演奏しますし、トロンボーンに至っては7つのポジションのみで全半音を演奏するのです。一つの運指・もしくはポジションのまま、唇や息を駆使していくつもの音を操ります。
一方クラリネットやサックスには「レジスターキィ」もしくは「オクターブキィ」というものが搭載されており、それを一緒に押さえると、クラリネットなら12度上、サックスならオクターブ上の音が自動的に(きれいに吹くには練習は必要ですが)出るようになっています。つまり、基本的な奏法の範囲においては一つの運指で一つの音を出します(ハーモニクスなどの特殊な奏法は除く)。
ではフルートはどうかと言うと、木管楽器でありながら金管楽器に近い要素を持っています。オクターブキィはついていないので、上のオクターブを吹きたければ同じ運指で吹き方を変えます。つまり息で「倍音」を操らないといけないので、クラリネットなどのリード楽器の人よりも、この「倍音」を理解して上手に付き合う必要があるのです。
フルート奏者が特に知るべき「倍音」
特にフルートで覚えておくと良いのは第1倍音から第3倍音!例えば最低音の「ド」ですと、第1倍音が「ド」、第2倍音がオクターブ上の「ド」、第3倍音がその完全5度上の「ソ」となります。
どの管楽器でも倍音奏法をすると、その音に含まれる倍音を調べることができます。最低音の「ド」に含まれる倍音を調べるなら、まず「ド」を吹いて、その運指のまま息のスピードを上げていき、第2倍音、第3倍音・・・と順番に倍音を取り出すことができます。
上手に吹くことができるともっと上の音もいくつか鳴らすことができますが、吹き方によっては唇に負荷がかかりすぎるので無理のない範囲にしましょう。
倍音は先ほどお話したように、必ずどの音にも含まれていて、必ず同じ幅で存在します。なので基音=第1倍音が変われば、倍音列がそのままずれていきます。最低音域の「レ」の第2倍音はオクターブ上の「レ」です。
「何故かわからないけど難しい」音の組み合わせの練習
跳躍の練習テキスト
フルートは中音域を吹くために第2倍音は毎日吹くのですが、第3倍音以上を練習する事はあまりないかもしれません。ですが跳躍が難しい音の組み合わせには、かなりの確率で第2倍音と第3倍音の吹き分けが絡んでいます。なので金管楽器でいうところの「リップスラー」に相当する練習をする必要があります。
普段教えに行っている吹奏楽部の中高生が、例に漏れず跳躍に苦しんでいたので、さくっとテキストを作ってみました。
フルートの場合、上に上がりにくい(もしくは下がりにくい)時は大体同じ倍音列の行き来をしていることがほとんどです。
例えば楽譜の最初の「ソ」指のまま、そのオクターブ下の「ソ」も出せるし、5度上の「レ」、さらに上の「ソ」も出せます。これらは同じ倍音列にある訳です。
例えば中音域の「ソ」と高音域の「レ」が行ったり来たりしにくいのは、その倍音のコントロールが出来ていないから。まずはその感覚を身につける必要があります。
このテキストで練習する際には以下のことに注意しましょう。
- 上の音に上がる時に息の量を増やさない
- 必要以上に唇を動かさない
- 下の音と上の音の質がなるべく変わらないように
テキストはダウンロードしてお使いいただいて構いませんが、無断転載・改竄等はご遠慮ください。あくまで個人の練習の範囲でお使いください。
練習のポイント
このテキストの目標は、ただ難しい跳躍が上がれるようになる事ではありません。曲中で出てきた時に、上の音がアクセントみたいにならないように、美しく跳躍することが目標です。
通常の運指で上がりにくい跳躍に出会ったら、どの倍音列のコントロールが絡んでいるのかを分析します。そして、その倍音列で運指を変えずに上がったり下がったりする練習をしてから通常の運指に戻してみると、ビックリするほど簡単に上がったり下がったりが出来るようになります。
そのためには、楽譜にも書いてありますが、上の倍音を息の量で出すのではなく、息の量を変えずに息を圧縮する感じで出します。息の量を増やす事で上の倍音を出していると、息を浪費しますし、なにより美しい跳躍は出来ません。
息を圧縮してスピードを上げるには、私が普段積極的に使わないようにオススメしている唇にも多少頼る必要があるかもしれません。下唇で息をちょっと集める感じです(この時上唇を意識してしまうと、音が潰れてしまってアンブシュアも固くなってしまいます)。ただし出来るだけ意識的には使わないようにしています。また舌の位置が下がってしまうと息のスピードが落ちてしまうので、下がらないようにしてみましょう。
同じ倍音列になくても難しい跳躍はたくさんあります。
実は、例の学校の中学生が上手く出来なかったのは中音の♭ラから高音のファの跳躍でした。この二つは同じ倍音列にありません。ですが♭シの指でファへ上がる倍音の練習をする事で、より遠い音間の跳躍の吹き方を掴む事ができます。
まとめ
- フルート奏者は特に第1倍音〜第3倍音と仲良くなろう
- 難しい跳躍が出てきたら、どの倍音列のコントロールが苦手なのか分析しよう
- 倍音列(ハーモニクス)の練習をする時は、息の量ではなく息の圧縮でコントロールしよう
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