【フルートの低音域】聞こえるように鳴らすには

 昨日のレッスンで、低音域を充実した音で鳴らすためのコツについてお話しました。

  • 曲の肝心なところで低音が鳴らない
  • ロングトーンを頑張ってもなかなか音量が増さない
  • 弱々しい低音しか出ない

こんな悩みがある方はぜひ参考になさってください!

目次

【そもそも】フルートの低音は大きく吹けない

 現代のフルートは随分大きな音で吹けるようになりましたが、それでも得意不得意というのがあります。フルートの特徴は輝かしい高音です。一方で低音域はあまり得意ではありません。オーケストラや吹奏楽で「もっと大きい音で!」と言われることもありますが、そもそも他の管楽器と同じような音量で吹くことはほぼ不可能と言えます。

 しかしプロの演奏を聞いていると、ホールの後ろの方まで響き渡る音で低音域を気持ちよく吹いています。もちろん楽器の差も多少はあるのですが、大きい音で吹いているのではなく、大きく聞こえるように吹くのが上手なのです。それでは、大きく聞こえる音とそうでない音の違いは何なのでしょうか?

低音を大きく聞かせるカギは「倍音」です

 管楽器を吹いている人に大切なキーワードとして「倍音」があります。倍音については過去の記事に概略を書いています。一つの音を鳴らしているときに、実は多くの倍音が同時に鳴っています。この倍音の組成や量によって、音のカラーや質、響き方が変わってきます。

大きく聞こえる音は倍音が豊富

 プロの音がホールに響き渡るのは、単純に音量が大きいということだけでなく、倍音がたっぷり含まれた豊かな音で吹いているからです。

 しかし未熟な演奏者の場合、低音を頑張って鳴らそうとすればするほど貧弱な音になってしまったりします。そもそも大きな音は出ない楽器なので、方向性が「大きく吹こう」だと空回ってしまうのです。

 ですので、低音が苦手だなという方はまず考え方を変えて、「響かせよう」という意識に変えることが大切です!

低音域を響かせるための条件とは

 低音域の鳴らし方のコツは世の中にたくさん発信されていると思うのですが、一般的には

  • 息のスピードを落とす
  • 息の方向を下に向ける
  • 口の中を広くする
  • タンギングを丁寧に

・・・などなどが挙げられます。しかしながら、これらを意識すればするほど鳴らないという経験はないでしょうか?

 これらの方法が間違いとは言えませんが、低音域が遠くまで届くようにするには、低音が出るようにすることを目的にするのではなく、倍音をたくさん鳴らすことを目的にしなければなりません。

フルートの低音が鳴る条件

 まずフルートの低音域が鳴る条件として、以下のようなことがあります。

  1. 息の量が上の音域に比べて多すぎないこと
  2. 息のスピードが速すぎないこと
  3. 息の角度が上すぎないこと

全ての語尾を「〇〇すぎない」と書いたのには意図があります。実際、我々フルート奏者が低音域を鳴らす際に、それほど積極的に「息の量を減らそう」、「息をゆっくりにしよう」、「息の角度を下にしよう」などとは思っていないからです。

倍音を増やす条件

 次に、倍音を増やすには以下の条件を満たす必要があります。

  1. 歌口の角度を内側にしすぎない(歌口のエッジを立てる)
  2. 息のスピードを保つ

実は、大学院時代に安藤由典氏の音響に関する文献を読み漁っていた時期があります。安藤由典氏はフルートの音が鳴る原理や、どのような条件を満たしたら良い響き(豊かな倍音を含む音)が出せるのかを物理的に研究されています。

 上記の2つの条件は、安藤氏の書籍や論文に書かれていることを、演奏者目線でものすごくシンプルにしたものです。

【参考文献】安藤由典著「新版 楽器の音響学」/音楽之友社 他

【コラム】歌口のエッジを狙うのは間違い!?

 歌口の角度については「偏心距離」というのがポイントでして、息を歌口のどこに当てると一番良い音がするのかというのが数字で出ています。

 まずは一般的な息の当て方のイメージを図にしてみました。これは歌口を輪切りにした様子を表しています。歌口のエッジに息を当てて、そこで息が分割されるイメージで吹くイメージをお持ちの方が多いと思います。

 しかしながらこの角度で吹いた場合、エッジに当たった息が管の中を回り、下から返ってくる時に息のビームを押し上げてしまうため、結果的に息はエッジから逸れてしまうのです。

 続いてこちらの図。エッジのほんの少し下を狙うようにすると、管の中を回って返ってきた息が息のビームを持ち上げ、ちょうどよくエッジにビームが当たります。エッジよりどれくらい下に当てるのかというのは、安藤氏の研究によれば0.8mm、1ミリ弱だそうです。

 しかし0.8mmはイメージしにくいと思いますので、レッスンでは「エッジではなく壁に息が当たるようにしましょう」と説明しています。

それなら、息を下に向かわせれば良いの?

いいえ、頭部管の角度で調整しましょう!

 息の角度も全く調整しないわけではありませんが、それは細かいピッチや音色の変化をつけるために取っておきたいのです。基本的な音色を豊かにするためには、まず頭部管をセッティングするときの角度を検討しましょう(後述します)。頭部管を内側に倒して吹く癖があると、息はエッジに当たってしまい響きが乏しくなります。なるべく頭部管を起こして、エッジの下に息が向かうようにしてあげると、倍音が増して良い響きになります(頭部管を外にしすぎると音がバサバサになるので、程よい角度を探しましょう)。

息はエッジよりほんの少し下に当たるようにしましょう

息のスピードと倍音の量は比例する

 また安藤氏の研究によれば、同じ音をさまざまな条件で吹奏した結果(人間ではブレが生じるため、独自の実験器具を使用されています)、息のスピードが速いほど倍音が豊かな音が鳴り、息のスピードが遅いと倍音が乏しい音になるそうです。

 低音域は息のスピードを落とさなければいけない、と一般的には言われていますが、落ちすぎると倍音が乏しくなり、説得力のある音からは遠のいてしまうのです・・・

低音域は息のスピードを落とさなければならないけど、遅すぎてもいけない

低音域のコツと練習の仕方

 低音域を大きく聞かせるための条件は、とにかく倍音を豊かにすること!そしてその倍音を豊かにするには

  • 息は歌口のエッジのほんの少し下(0.8mm)を狙う
  • 息のスピードをある程度キープする

・・・これらの条件を満たす必要があります。そのためのコツと練習方法についてまとめてみます。

頭部管のセッティングを見直しましょう

 先ほどの偏心距離0.8mmを実現するために、頭部管の角度を見直してみましょう。「音色が暗いな」、「音が細いな」という悩みのある方は、頭部管の角度をいつもより外側にしてみると良いかもしれません。

【ポイント】

  • 角度の調整はすこーーしずつ(いきなり何ミリも動かさずに、髪の毛2本分くらいずつ調整しましょう)
  • 全音域が良い音で鳴る角度を探しましょう(特定の音域だけが鳴る角度はちょっとやりすぎの可能性あり)
  • 判断が難しい時は先生に聞いてもらいましょう

唇は放っておきましょう

 低音域のためだけのアンブシュア、アパチュア(唇の間の穴)を作ろうとしてしまうと、大体においてアパチュアが狭くなります。

アパチュアが狭くなる→息のスピードが上がる→低音域が鳴らない・・・

・・・このようなループにハマってしまうと、より一層恐る恐る吹かなくてはならなくなるので、唇のことを気にしないことがコツの一つです。

低音域の【倍音増し増し】トレーニング

 さて、最後に低音域で倍音を増すためのトレーニングをご紹介します。ひとまず低音の「ミ」で練習してみましょう。

STEP
まず低音「ミ」を鳴らしてみましょう

ぼんやりした音でも良いので、オクターブ上に裏返らないように鳴らしてみましょう。

STEP
今度はオクターブ上の「ミ」を鳴らしましょう

慣れている方なら、この工程は省いても構いません。

STEP
もう一度低音「ミ」を鳴らしながら、今度はオクターブ上の「ミ」も一緒に鳴らしてみましょう

低音「ミ」からオクターブ上の「ミ」へ、スラーで跳躍するつもりで吹きますが、一気にオクターブ上がるのではなく、ゆーーーーっくり上がろうとします。その間、聞こえる音は低音「ミ」だけではないけど、オクターブ上の「ミ」にも上がり切らないというポイントがあるので、そこを狙います。

この練習の過程で、オクターブ上の音に上がる直前あたりの音色をよく聴いてください。かなりしっかりした低音の「ミ」が鳴っていませんか・・・?

この練習で掴めること

  • 低音域って案外低くない
  • 低音域がよく響いた時は、結構複雑な音がする
  • 下!と思わずに、上の倍音をもっと鳴らそうとしていい
  • 恐る恐る吹かないで、意外と普通に吹いていい

「ミ」で慣れてきたら、さらに下の音でも試してみましょう!

まとめ

 以上の練習方法は、実は元々中音域が苦手な生徒さんにしてもらう練習だったのですが、低音域の響きのためにも効果的だということが分かったので今回ご紹介しました。この練習をすると、低音域に求められる適切な息の量やスピードが分かるようになります。

 低音域だから息をゆっくり、少なく、角度を下げて・・・などなどの意識によって、返って弱々しい低音を生み出してしまうことになります。大きく聞かせたいなら倍音増し増しで吹く必要があるので、低い音だけを鳴らすことはやめて、もっと色々な音が混ざったようなマーブルカラーの音を目指してみましょう!

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コメント

コメント一覧 (8件)

  • はじめまして。間もなく83歳になります。70過ぎてからフルートをはじめました。下手なのですが好きで好きでたまらず毎日練習しております。
     どの音域もいい音がでなくて悩んでおりました。特に低音域はか細くていやになっていました。そんな時この倍音に関する提案が記され飛びついてしまいました。ミの音の倍音は出せていたのでG以下の音が少しは響くようになりました。1週間ぐらしてからこれでいいのだろうかと自分の音に疑問を持つようになりました。それはトレーバーワイフルート教本1の「はちをいっぱい詰め込んだ紙袋のような、ブーブー、ズーズーという響きにならないように」と注意されていることです。このことと倍音を多く含んだ音とはどのように区別したらよろしのでしょうか。
     

    • こんにちは、お読みくださりありがとうございます。
      どんな音色で演奏されているのかを聴いてみないと何とも言えないところではありますが、歌口で息が詰まるような感じがなく下まで吹けていれば恐らく正解だと思います。

      ワイ先生が表現する「ズーズー」は、歌口のエッジを自分の方に近づけて短く息を吹き付ける時に出る音ではないかと私は推測しています。これは倍音を殺して音の芯の部分のみを鳴らしている状態で、自分では鳴っているように感じますが、遠くには聞こえない音です。目指したいのはそうではなく、芯の周りに響き(倍音)を伴った音ですので、記事の中では高次倍音を豊かにするアイディアを記しました。

      自分の音色がどうであるかというのは、自分自身の耳では正直分からないのがフルートという楽器でして…自分では良いと思わない音が誉められたりする事もあります。ぜひ聴こえてくる自分の音にフォーカスし過ぎずに、息が歌口を気持ちよく掠めて行っているか、詰まった感じがないかに注目して吹いてみてください。
      倍音については以下の記事にも記述していますので、宜しければご覧ください。
      https://flute-labo.com/2022/09/29/【フルート】雑音は悪ではない??/

      かつて同じくらいの年齢でスタートされた方を教えていたことがあります、是非これからもフルートを楽しんでください!

  • はじめまして。間もなく83歳になります。70過ぎてからフルートをはじめました。下手なのですが好きで好きでたまらず毎日練習しております。
     どの音域もいい音がでなくて悩んでおりました。特に低音域はか細くていやになっていました。そんな時この倍音に関する提案が記され飛びついてしまいました。ミの音の倍音は出せていたのでG以下の音が少しは響くようになりました。1週間ぐらしてからこれでいいのだろうかと自分の音に疑問を持つようになりました。それはトレーバーワイフルート教本1の「はちをいっぱい詰め込んだ紙袋のような、ブーブー、ズーズーという響きにならないように」と注意されていることです。このことと倍音を多く含んだ音とはどのように区別したらよろしのでしょうか。

  • ご丁寧なご返信ありがとうございます。やはり実際に音を聞いていただかないと、わかりませんね。
    現在オンラインレッスンをして頂くための準備をしております。ノートパソコン初めてなので手間がかかっています。準備でき次第ご連絡いたしますのでその折には宜しくお願い致します。

  • オンラインレッスンを受ける場合事前に準備するものを教えてください。なお当方はノートパソコンを使用しております。

    • オンラインレッスンにつきましては、https://flute-labo.com/online_lesson/に詳しく記載していますので、こちらをご覧いただければ幸いです。
      ご不明点などございましたらお問い合わせフォーム(https://flute-labo.com/contact/)よりお尋ねいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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