【フルート基礎練習】音階練習の本当の意義

 いろいろな習熟度の方々にお読みいただいていると思いますが、皆さん音階練習は好きですか?私は嫌いでした。それはただの指のトレーニングだと思っていたから。全調をいろいろなパターンでやらなきゃいけないのは分かっているけど、エチュードも、曲もさらわなくちゃいけない。となると音階練習だけに時間を割けない・・・。

 しかし、音階練習ほど短時間でさまざまな事を学べる練習は無いということに、大人になってから気がつきました。やっただけの効果が出るので、今は音階練習がかなり好きです。という事で、ここではさまざまな音階練習のテキストや音階練習の凄さについてのお話と、効率よく音楽的に音階練習ができるように考えてみたオリジナルのテキストについてご紹介したいと思います。

目次

有名な音階練習テキスト

マルセル・モイーズ/フルートのための日課練習


 とある音大の入試で必要だったため購入。あらゆるパターンの音階が載っており、インターバル(音程)の練習が特に充実しています。前書きの中でモイーズ大先生による練習メニューがあり、日替わりでやっていくとテキストの全パターンに触れる事ができます。全部計画的にさらえるというシステムが予め構築されているのなら、それはやらなくては!と、早速端からやってみようと試みましたが、私は何回も心折れました・・・。後半の跳躍音階が難しすぎて、ちょっと吹いたくらいでは満足いく出来にはなりません。これをルーティーンにできている人は本当にすごいです。

 私は全調のスケールや全音階、半音階、アルペジオ(分散和音)のページなどに絞って使用していました。

正直なところ、この本に載っていることが全部できなくても大抵の曲は吹けるので、最後まで出来なくても落ち込まないでください!

タファネル&ゴーベール /17のメカニズム 日課大練習


 音大受験を志した際に真っ先に買うように指示されたテキスト。学生の頃は嫌でしょうがなかったですが、大人になるとこの本がいかに素晴らしいかよく分かりますし、それ故にいまでも音大生のバイブルの一つなのだと思います。必要な技術的な練習が網羅されていて、バリエーションも豊富です。

 しかし、出来るなら書かれているアーティキュレーションを全て当てはめてやりたいと思うと、毎日膨大な時間をタファネルゴーベールに費やさねばなりません。ならば計画を立てて少しずつ毎日やろうとするも、途中でどこまでやったか分からなくなったり、何日か空いてしまって練習熱を失ったり・・・の繰り返しでした。しかし、飽きてしまって他に浮気するも、結局戻ってきてしまうのもこのテキスト。シンプルで大変考えられた練習が詰まっています。

この本に載っている音階を元にした練習もたくさん存在するので、一家に一冊置いておきたいテキストです!

トレバー・ワイ/フルート教本 第2巻 〜テクニック〜


 高校生の時に奏法に迷っていて、トレバーワイのフルート教本を一式購入しました。全6巻にわたるシリーズで、「音作り」「テクニック」などテーマごとに分かれています。タファネルゴーベール やモイーズに飽きた時に、練習に変化を与えたくて使っていました。単純に読み物としても勉強になります。

 第2巻「テクニック」は、既存の音階練習に手を加えたものや、特に嫌な指遣いをピックアップしているコーナー、トリルの練習の大切さの項など、技術的な練習のヒントがたくさん詰まっています。ワイ先生のレッスンを見たことがある方なら先生のお話しの仕方をご存じだと思いますが、本の中にもワイ先生独特のウィットに富んだ表現が散りばめられています。「難しかったらこういう練習をしてね」とか、「初めはうまくいかなくてもがっかりしないでね」といったアドバイスにはお人柄を感じますし、練習のアイディアも豊富です。

ミシェル・デボスト/フルート奏法の秘訣 練習ノート

 「フルート演奏の秘訣」はもともと上下巻の書籍で学生の頃に読んでいたのですが、その中に「音階ゲーム」というコーナーがありました。当時は他にもたくさん音階練習をやらなければならなかったので「ふーん」くらいにしか思っていませんでした。

 最近たまたまある動画を見ていて、ミシェル・デボストの「音階ゲーム」の話が出てきました。「シンプルフルート」というテキストに載っているという事で検索してみたところ、フランス語(と英語)のテキストはあるのですが、かつてあったはずの音楽之友社版の日本語テキストはどうやら絶版の様子・・・。しつこく探してどうにか中古で手に入れました。そしてその内容に大変感動したのです。

 「音階ゲーム」の内容は、タファネル&ゴーベールの第4課の音階練習を利用した「遊び」です。60パターンの演奏スタイル(テンポ、強弱、アーティキュレーション、時代など)の指示が提示されていて、それを決められた調からスタートしてひたすら指示通り吹いていきます。初めて挑戦した日は1時間以上かかりました(笑)古典派風、現代曲風、プロコフィエフ風などなど、かなり実践的な内容です。さまざまな曲の中に出てくるスタイルを取り入れて音階練習をすることで、曲中で即戦力として使える音階演奏の技術を身につけられてしまうというもの。

 例えばある音階にはアーティキュレーションがついていて、「モーツァルト風」などと書いてあるのです。かつてそんなことを考えながら音階練習をしたことがありませんでしたが、なるほどそう思って練習したら楽しくなりそう!と思いました。この本との出会いが、私の中の音階練習の概念を変えてくれました。ただし、モーツァルトの演奏スタイルがどんなものなのかなど、一通りの音楽スタイルが何となく分かっていないと難しいというのも事実なので、ある程度の学習経験が必要となります。

Michel DEBOST : “Une Simple Flûte“/Cahier de travail

音階練習の意義は「音楽をすること」

 音階練習で習得できそうなこととして、ぱっと思いつくものは

  • 速いパッセージの吹き方、さらい方
  • 自分が思う通りのタイミングで指を操る方法
  • いろいろなアーティキュレーションがついた音階を吹く技術
  • 全部の調が暗譜で吹けることによる初見力アップ

・・・などなどだと思います。世の中の楽曲の大部分は音階で出来ていますので、全調がスラスラ吹ければ殆どの曲に対応できるということになります。しかし練習の方法や意識を変えるだけで、上記のことを効率的に習得でき、さらに実際に曲中で求められるさまざまな音楽的シチュエーションを意識した「音楽をするための時間」にする事ができます。

デボストの「音階ゲーム」は画期的!

 デボストの「音階ゲーム」は、音階練習の理想形を見事に具現化したものと言えます。「音階ゲーム」によって見えてくる音階練習の目的とは、

実際の曲の中での音楽的な音の扱い方を習得すること

だと思います。実際、音階ゲームにはあらゆる楽曲のスタイルが取り入れています。バロック音楽、モーツァルトをはじめとする古典派の音楽、近現代・・・。ただ各調の音階が並べられているとそういった学び方をしづらくなってしまいますが、音階ゲームではそれぞれの調を吹く時にコンセプトが与えられているので、音階を吹く目的が非常に分かりやすいです。

 私も今まで音階練習は何となくの義務感でやっていましたし、全部の調を記載された全部のアーティキュレーションで吹こうとしても、1日ではできず、スケジュールを決めてみてもどこかで挫折して続かなかったりしていました・・・。

 ですが、音階練習で大切なことは全調吹けることでも、やみくもにたくさん練習することでも、速く吹けることでも、載っているパターンを全部当てはめて吹けることでも無かったのだと気付かされました。大切なことは

素敵にメロディを演奏するために、いかにそれらのメロディを想定して音階を吹けるか

ということではないでしょうか。

デボストの「音階ゲーム」の難点

 「音階ゲーム」は知りうる限り最も素敵な練習だと思うのですが、一方で難点もあります。

  • とにかく時間がかかる(スムーズに出来て1時間くらい)
  • スケールを高音域まで全調スラスラ吹けないとできない
  • メトロノームの速さを頻繁に変えなければならない
  • 有益な指示がたくさんあるが、一通りの音楽スタイルを勉強した経験がないと難しい

つまり当然初心者向けでは無いですし、経験者でもなかなか難しい内容であることは否定できません・・・。

【予告】「新・音階ゲーム」を作ることにしました!

デボスト先生の練習はかなり実践的で有益な内容なので、吹奏楽部の中学・高校生にも挑戦してほしいですし、多くの方に音階ゲームのコンセプトを取り入れた練習をしてもらえないかなと考えていました。

 そこで、デボスト先生の「音階ゲーム」を少し取っ付きやすい形に変えたものを作ることにしました!よく吹ける人だけでなく、初めてこのタイプの練習に取り組む人でも挑戦しやすいものも試作予定。現在、調号3つまでの長音階のみのもの、調号3つまでの長・短音階のもの、全24調バージョンの3つのバージョンを考えています。

 改造ポイントとしては・・・

  • 全24調バージョンでも順調にできれば20分で出来る(従来版ですと私は45〜60分かかりました)
  • メトロノームの速さを調整する回数が圧倒的に少ない
  • より身近なアーティキュレーション・音楽スタイルに絞った

オリジナルの「新・音階ゲーム」は以下の記事にPDFで掲載しました!

音階を知ることは曲を知ること

 音階練習はとても有益な練習なのですが、覚えるのに労力が必要なのもあり嫌われがちです。しかし、西洋の楽器を演奏する上で西洋音階に親しむことは基本中の基本ですし、各調の持つ性格や雰囲気を知っておくことは曲を吹く上で重要な手がかりになります。

 例えば、今取り組んでいる曲の調で、1オクターブでも良いので音階を吹いてみましょう。音階が吹けると、その音階に含まれる音とそうでない音が分かるので、曲中で音階に含まれない音に出会ったときに「ん?」と気がつくことができます。音階に含まれない音が曲中に出てくる時はとても重要な瞬間であることが多いので、そういったことにも興味を持てるようになります!

 速く吹けなくても、全調吹けなくても、高音域まで吹けなくても良いです。自分に身近な曲で使われている調を取り出して、その曲に登場するアーティキュレーションを取り入れたりして、楽しみながら音階を吹く時間をぜひ作ってみてください。

趣味で楽しむ方々によく吹いていただく曲に使われる調はある程度限定されていて、調号(楽譜の最初に記載されているシャープ・フラット)の数が3つまでの長音階が吹ければ、大抵の曲は対応ができます。今後そういったレパートリーに特化した「ゆる音階練習」も作ろうと思っています。

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