管楽器の個人レッスンでは立奏(りっそう、立って演奏する)をするのが一般的ですが、その常識が揺らぐ出来事がありました。立奏の方が脚力を使えるため、呼吸がしやすく力を出しやすいはずですが、万人がそうではない、という事が分かったのです。
- 「立つ」のが難しい人もいる
- 「足」と「立つ」の密接な関係
- 「座る」という選択肢が必要な人・場面
「座った方が吹けるんです」という一言
ある日のレッスンで、初心者の生徒さんの下半身が、演奏中にゆらゆらすることに気が付きました。もちろん多少音楽に合わせて揺れるのは悪いことではありませんが、その動きが音楽とはリンクしておらず、違和感を感じたのです。
まだフルートを始めたばかりで、2オクターブを吹くのがやっとの生徒さんでしたが、吹奏楽部で他の管楽器も経験しているし、息もしっかり吐いている。でも上手く音にならない…そんな様子でした。
そこでまず、しっかり足で床を踏むともう少し鳴るかもしれない、と声をかけてみました。すると、とても興味深い返答があったのです。
「基礎練習に時間をかけて一生懸命吹いているうちに、疲れて座って吹くと、その方が調子が良いんです。」
それを聞いて、私はハッとしました。そうだったのか…早く気付けなくて申し訳ないと思いつつ、すぐ座って吹いてもらいました。すると、先ほどまでかすらなかった第3オクターブのドもちゃんと鳴るではありませんか。
この方はまだ20代で若い生徒さんです。腰痛があるわけでも、体力が無いわけでもない。それでも座った方が吹きやすい…。
音がなかなか出るようにならない原因として、最初は呼吸やアンブシュアを疑っていました。しかし実は原因はもっと下にあったのです…ずばり「足」です。
「立つ」ことは実は難しい
ヨガの「タダーサナ」
私はヨガのインストラクター資格を持っているのですが、ヨガにはシンプルに「立つだけ」の「タダーサナ」(山のポーズ)というポーズがあります。

これが実は最も難しく、奥の深いポーズと言われています。
足の裏で均等に床を押す。骨盤の角度をニュートラルにする。背骨を自然なS時カーブで積み上げ、腰椎の真上に頭蓋骨を乗せる。
このタダーサナがきちんと出来ている現代人は、おそらく少ないでしょう…私もまだまだ自信がありません。
現代人は「立つ」ことが難しくなっている

なぜ「ただ立つ」ことが難しいのかというと、現代人の足にヒントがあります。
実は私自身が外反母趾気味なのですが、他にも扁平足、ハンマートゥ、どこかにタコが出来ている、膝が痛い、などなど…何かしらのトラブルがある人は少なくありません。
足にトラブルがある場合、2本脚で立つためにどこかで無理をしています。私の場合足から反り腰に繋がっていることが分かっているので、気をつけて立つようにしています。
座った方が吹きやすい、と教えてくださった生徒さんは、扁平足なのだそう。立った時の不安定さは、「足」から来ていたのです。そしてそれが、息が音になりにくい原因となっていました。
全ての土台である足を観察しよう

吹きにくい原因は意外と遠くにある
身体は全て繋がっています。
音が出にくいと、一番発音する場所に近い所が原因ではないかと疑いがちです。アンブシュア、歌口の角度、歌口の位置…そういった所です。
しかし、本当の原因はもっと別の場所…最も遠い場所にある可能性があります。今回の事例がその最たる例と言えます。
この方が初心者だったため、問題の発見が比較的早く出来ました。経験者の場合は技術でどうにか対処してしまっている場合も多く、そうなると本当の問題が見えにくいので、なかなか原因が分からず悩むこともあります。
何か長年解決できない問題があるのであれば、その問題となる箇所から遠いところに原因はないか、疑ってみることをオススメします。
骨盤・足

まず骨盤。前傾している場合は反り腰、後傾している場合は猫背など、背骨のカーブが歪んでいる可能性があります。
そしてそういう癖がある方は、足にも何かしらの問題が潜んでいます。母指球・小指球・かかとで均等に体重を受け止めているでしょうか?どれかに偏ってしまっていると、外反母趾や内反小趾といった足の変形が起きやすくなります。
また、扁平足は足裏のアーチの発達不足によるもので、先天的なものと後天的なものとあるようです。
頭は結構重い

そして、頭蓋骨の位置も演奏において非常に大切です。無意識のうちに楽譜を覗き込んで、首が前に出てしまう…楽器に顔を近づけようとしてしまう…これらの様子は非常に多く見受けられます。
頭は体重の10%の重さがあると言われています。それほどに重たいものを、首や肩の筋肉で引っ張りながら演奏するのは酷です。頭の重さをきちんと足裏で受け止められる状態にすることが、快適な演奏への近道です。
あなたの骨盤、足はどうでしょうか?
こんな人・時は座って練習・レッスンでも良い
無理に立奏で頑張る必要はない

足のトラブルや骨盤の角度は、1日2日でどうにかなることではありません。日頃の習慣の積み重ねの結果なので、まずは問題を自覚すること、そして改善のために習慣を変えることから始める必要があります。
座奏と立奏で顕著に吹きやすさが違う場合、苦手な方でたくさん練習した方が良い気がするかもしれません。しかしそうすることで、負荷が高くなるということは念頭におかなければなりせん。
もし座奏の方が明らかに吹きやすい方は、基本的には座奏で快適に練習した方が良いでしょう。立奏は短時間で。また腰痛、股関節や膝関節の痛みなどがある場合も、立奏することは負担になるかもしれません。
片脚を怪我している時なども、体重が反対の脚に乗ってしまって重心がおかしくなるため、立奏では上手く吹けなくなるケースがあります。立てるとは言え、片脚を庇うような状態であれば、坐骨でしっかり椅子に座って吹く方が良いです。
立奏もできるように習慣を変えたり、ケアをしよう
座奏で快適に演奏することと並行して、立奏時に不安定になる原因と考えられる足や骨盤を見直していきます。必要なケアやトレーニングをして、将来的に立奏でも吹ける土台を作っていきましょう。
例えば私の場合、外反母趾+反り腰が主な悩みです。最近は毎日足指や足の骨をほぐすマッサージをしたり、足底筋を鍛えるトレーニングをしています。骨盤の角度は特に演奏中気をつけていて、時々背中を壁につけて立って腰の状態を確認しています。
何よりまずは今の自分が、一番快適に演奏できる方法を選んでください。
まとめ
私も自分がレッスンを受ける時は100%立っていましたし、ソロの演奏でも立つのが当たり前。座るよりも演奏がしやすいものだと思っていました。しかし、実際には立奏が向いている人もいれば、座奏の方が力を発揮できる人もいます。
大切なのは「こうあるべき」に身体を合わせることではなく、自分の身体が何を教えてくれているかに耳を傾けること。もし立つと吹きにくいという感覚があるのであれば、それは努力不足ではなく、身体からのサインかもしれません。
「立つ」ということは、実は現代人にとって難しい姿勢です。特に初心者や、何か痛みがある場合は、座ることで負荷を下げて練習したり、レッスンを受ける方が良いでしょう。
そして立ちにくさや痛みの原因を取り除くために、自分の身体…特に足や骨盤の状態に目を向けてみましょう。
管楽器は呼吸が命。きちんと立つ・座ることが良い呼吸の素です。快適に呼吸できる姿勢で演奏しましょう。
まずはあなたが立奏・座奏のどちらの方が演奏しやすいか、チェックしてみてください。もしよろしければ、どちらが吹きやすいかコメントを残してくださいね!

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