スタッカートが出てきたら、とりあえず短く「タッ」と吹く。そんなふうに演奏していませんか?私も長い間、「スタッカート=短く切る」という意味だと思っていました。
でも、イタリア語のstaccatoを調べてみると、少し違う景色が見えてきます。staccatoのもとになったstaccareには、「離す」「外す」「切り離す」といった意味があります。つまり大切なのは、ただ短くすることではなく、音と音をどう離すか。「短くする」のは目的ではなく、その結果なのです。
では実際、スタッカートの長さはどう考えればいいのでしょうか。楽譜の読み方と、きれいに発音するための練習方法を一緒に見ていきます。
- スタッカートの本来の意味
- スタッカートを短くしすぎることで起こること
- 曲に合ったスタッカートを考える5つのヒント
- スタッカートをきれいに吹くための練習方法
そのスタッカート、短すぎない?

スタッカートは、あらゆる曲の中に登場し、あらゆる音符についています。四分音符、八分音符、十六分音符…。そしてあらゆるテンポの曲で使われています。
時にはアクセントやテヌートなどの他の記号と一緒に付いていたり、時にはスラーの中やスラーの終わりに付いていることもあります。
しかし、教科書などで「短く」と表現されることが多いからなのか、スタッカートがつくととりあえず短く「タッ」と演奏されていることも多いと感じます。
スタッカートの音がきれいに鳴らない、というご相談を受けることも少なくないのですが、その原因の大半は「短くしようとしすぎ」ることによります。短くしようとしすぎて息が多くなりすぎたり、舌の動きが大きく・硬くなってしまったり…。
良い音で発音できるように奏法を見直すとともに、作曲家や編曲家が思い描いた長さは本当にこれくらい?という視点でスタッカートを見ていきましょう。


イタリア語のstaccato本来の意味
音楽用語のほとんどはイタリア語です。そして多くはイタリアの日常会話で普通に使われる言葉でもあります。

スタッカートはどうでしょうか。詳しく調べてみると、元はstaccare(離す、外す、切る)という動詞から来ていること、staccatoはその過去分詞形であることが分かりました。
例えば、フェルマータ。音楽用語では「その音を程よく保つ」などと訳されますが、私がこの言葉を現地で聞いたのは地下鉄のアナウンスでした。イタリア語はほとんど分からない私でしたが、「次の駅は〜…」というアナウンスで「フェルマータ」という単語が聞こえました。停留所や駅を表していたのです。
もちろんこの言葉も日常的によく使われる言葉です。調べる中で、こんな例文が出てきました。
1. Devo staccare un attimo.
(ちょっと休憩しないと。/仕事から離れないと。)
→ 仕事や作業から「離れる、一息つく」という意味で非常によく使う表現。
2. Ho staccato la spina.
(コンセントを抜いた。)
→ 電化製品のプラグを抜くときの定番表現。比喩的に「(考え事などから)離れる」の意味でも使われます。
3. A che ora stacchi (dal lavoro)?
(何時に仕事終わるの?)
→ “staccare”は口語で「勤務を終える、退勤する」の意味でもカジュアルに使われます。
4. Il bottone si è staccato.
(ボタンが取れた。)
→ 物が「外れる、取れる」という物理的な意味。
5. Parla in modo staccato.
(彼/彼女は言葉を区切るように話す。)
→ 話し方が「途切れ途切れ」「一語一語はっきり区切る」様子を表す、音楽用語に近いニュアンス。
最後の5つ目の例文が音楽用語のスタッカートに近いですね。見ていただくとわかるように、「短く」という要素はスタッカートにはなく、離れる・切ると言った意味で使われています。
「スタッカート=短く」とは限らなかった
楽譜に「点」がついていたら、現代人の私たちは「短く切る」と考ることが多いです。でも、昔の楽譜を見ていくと、スタッカートは必ずしも「この長さまで短くする」という単純な記号ではなかったことが分かります。
バロック時代は、現在ほどアーティキュレーション記号が細かく書き込まれておらず、どこをつなげ、どこを離すかは演奏者に委ねられている部分も多くありました。
当時の演奏では、そもそも音と音を現代のようになめらかにつなげ続けるのではなく、それぞれの音をはっきり発音し、適度に分離させることも重視されていました。
さらに、点や線などの記号が示すニュアンスも、時代や作曲家によって必ずしも同じではありませんでした。
ある場面では音を分離させるために使われ、別の場面では音の強調や、アーティキュレーションの違いを示すために使われることもあります。
つまり、楽譜上に同じような「点」が書かれていても、いつでも同じ長さ、同じ発音で演奏すればよいとは限らないのです。
スタッカートは「短くする」のではなく「離す」
これは昔の音楽だけの話ではありません。現代の楽譜でも、四分音符についたスタッカートと十六分音符についたスタッカートでは、聞こえ方が違います。
テンポが違えば、同じ音価でも実際の長さは変わります。スラーの中についたスタッカートと、アクセントと一緒についたスタッカートでも、求めたいニュアンスは変わるでしょう。
そう考えると、スタッカートを見た瞬間に、「音価を短くしなくちゃ」と考えるだけでは、少し情報が足りません。大切なのは「何秒、何拍分の長さにするか」を先に決めることではなく、この音と次の音を、どのように離したいのかを考えることです。その結果として、音は短くなります。
つまり私は、スタッカートの「短さ」は目的ではなく、音と音を離した結果として生まれるものだと考えています。
スタッカートがついた音の長さのヒント

では、実際はどのようにスタッカートを吹き分けるのかということへのヒントをお話ししたいと思います。
ただし前提として、あくまで私個人の経験を元にしたものであるということをおことわりしておきます。同じ条件の音符も、10人の奏者がいたら10通りのスタッカートになります。
最終的にはご自身で楽譜を読み、その音その音にあったスタッカートを演奏していくことになります。
スタッカートのついた音符の長さを考える上で、楽譜上にはヒントになる情報があります。それは主に以下の5項目です。
❶どの音価の音符についているか
スタッカートはあらゆる音価の音符についています。例えば四分音符についているのか、八分音符についているのかは、どれくらにの長さにするのかという点において参考になる情報です。長い音価についているスタッカートの方を長く捉えると、自然な長さになることが多いです。

四分音符のスタッカートの方を長め(響きを残す感じ)にすると自然
ただし、十六分音符の連続の場合は注意が必要です。短くしようとしすぎて、音が鳴らなくなってしまっている演奏を多く聞きます。この場合は、音同士がサクサクとセパレートできれば良いと考えましょう。

息の流れを意識して舌でセパレートするイメージに
❷曲のテンポはどうか
テンポが速い曲と遅い曲ではスタッカートの長さやニュアンスが変わります。遅い曲でのスタッカートは頻度としては少ないですが、遅い曲の場合は長めに余韻を残すような感じにすると良い場合が多いです。
❸強弱はどうか
同じ八分音符のスタッカートでも、pとfでは求めたい音のキャラクターが変わります。
pなら軽く短めにすると雰囲気が出ることもありますし、fなら少し長さを保った方が響きを失わずに演奏できることもあります。クレッシェンドに合わせて少しずつ音の長さを変えてみるのも、一つの方法です。
強弱は単純に音量だけで作るのではなく、スタッカートの長さや発音も含めて考えてみましょう。
❹他にもアーティキュレーションの記号はないか
スタッカート単体ではなく、スラーやアクセント・テヌートと一緒に表記されている場合もあります。基本的にはどれもスラー単体よりは長くなるすると良いことが多く、さらにもう一つの記号の音の方向性やニュアンスを反映させるようにします。

アクセント+スタッカート
私は弦楽器の曲をフルート用にアレンジする際に、ピッチカートの表現をスタッカートとテヌートで表現することがあります。弦を弾(はじ)く感じは欲しいけれど、余韻は残したい…そんな意味を込めています。
記号に込められた書き手の思いをぜひ読み取ってみましょう。
❺曲が書かれた時代はどうか
モーツァルト以前頃の曲の中では、音符についた「点」が「強調」を意味していたこともありました。19世紀前半くらいまでの曲の場合は、まだスタッカートの定義が曖昧なので、バッハなのか、モーツァルトなのか、ベートーヴェンなのか…など、作曲家それぞれの書き方の癖や、その時代の演奏習慣を考慮する必要があります。
現代になってから書かれた新しい楽譜においては、スタッカートはスタッカートなので、❶〜❹で示したような観点をヒントにして、それぞれの音符にあった長さで演奏しましょう。
スタッカートが付いた箇所の練習方法

最後に、スタッカートを伴う音をきれいな発音で演奏するための練習方法についてお話しします。スタッカートにしても、アクセントにしても、伸ばす音符にしても、音の大事な要素は「息」です。タンギングをしたときに音が散ってしまったり、まとまらない、という時には、舌やアンブシュアを動かす前に「息」を見直しましょう。
一つ一つの発音を綺麗にしたい
タンギングをしないで各音を吹く練習をしましょう。つまり発音の力を借りずに、息だけできちんと音を鳴らす練習です。
この時、音をまとめるために唇をすぼめたり、ひたすら息を勢いよく吹き付けたりはしません。
全く同じ息で吹ける音はありません、それぞれの音にあった息の量、太さ、スピードを探していきましょう。また良い音が出た時の舌の位置や状態も覚えておきましょう。
息だけで良い音が出るようになったら、それを土台として補助的にタンギングを入れてみます。良い音が出た時の舌の位置を思い出し、音の鳴り始めを軽く整えます。
ダブルタンギングなど、連続したタンギングを綺麗にしたい
タンギングの連続がうまくいかない時は、一つ一つの音を頑張って吹いてしまっています。まずはそのフレーズ(音)をレガートやロングトーンで吹いて、その息のままで区切る練習をするのがおすすめです。
こちらの記事でその練習方法を説明していますので、よろしければ参考になさってください。

まとめ

スタッカートを見ると、つい反射的に「短く吹かなくちゃ」と考えてしまいます。でも、本来のstaccatoが持つ意味をたどっていくと、大切なのは単純な「短さ」ではなく、音と音をどう離すか、どう区切るかということが見えてきます。
四分音符なのか、十六分音符なのか。テンポは速いのか、遅いのか。スラーやアクセント、テヌートは一緒についていないか。そして、どの時代・どの作曲家の音楽なのか。同じ点がついていても、求められるスタッカートは変わります。
「スタッカートだから半分の長さ」と機械的に決めるのではなく、その音にどんな間やニュアンスが必要なのかを考えてみてください。短くすることを頑張りすぎると、舌や唇に力が入り、音そのものまで痩せてしまうことがあります。
まずは良い息で音を鳴らすこと。その上で、音と音の間に必要な隙間をつくること。スタッカートを「短くする記号」ではなく、「音の関係を考える記号」として見てみると、演奏の幅がかなり広がると思います。
今日試して欲しいこと
スタッカートが出てくる曲を一つ選んで、同じフレーズを3通りの長さで吹いてみてください。
まずは、いつもよりかなり短く。次は、少し長めに。最後は「短くする」と考えず、音と音の間にほんの少し隙間をつくるつもりで吹いてみます。
どれが一番その曲に合って聞こえましたか?
「スタッカートだからこの長さ」と最初から決めず、テンポや強弱、フレーズ、その音の役割を聴きながら比べてみてください。自分が無意識に「スタッカートはこれくらい」と決めていたことにも気づくかもしれません。
フルートを吹いていると、いつの間にか「こう吹くもの」と思い込んでいることがあります。でも、その意味を少し掘り下げたり、実際に自分の音を聴き比べたりすると、今までとは違う選択肢が見えてくるかもしれません。
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